Hiraku’s diary

特にコンセプトはございません。ご笑覧ください。

夏休み

夏休みと聞くとみんなは何を思い浮かべるだろうか。海、BBQ、キャンプ、そんなところだろうか。

 

僕は、高校2年生の時に見た、小さな打ち上げ花火を思い出す。

 

せわしくセミが鳴いていた。僕はセミの声が好きだ。賑やかだから。よく泣く赤ちゃんも元気があってとても好きだ。そんなことを考えて自転車を漕いでいると急に夕立が降りだし、セミたちは一斉に鳴きやみ散り散りになった。僕も雨宿りしようと近くのバス停の屋根の下に入った。

 

雨はなかなか止まなかった。僕は自転車から降りバス停のベンチに腰掛けた。憂鬱な気持ちで空を見上げていると、ポケットが振動した。スマートフォンにLINEの通知が来ていた。

 

「今日も2個アイス食べちゃった。」

 

当時、僕は片想いをしていた。初めて本気で人を好きになった。当時はよくわかっていなかったが、今思えば確かにそうだ。例えば、廊下ですれ違った時うまく挨拶ができなかったり、その人が聞いていると言っていた音楽を調べてまで自分で聞いてみたり、可愛らしい笑顔を見るだけでどきりとしていたものだ。

 

返信を考えた。アイス2個とか太るよ、打ちかけて辞めた。俺もアイス食べたよって言えば盛り上がるかな、けど俺がアイス食ったとか興味絶対ないよな、くだらないが真剣だった。

 

気がつくと、セミの声がまた聞こえた。とっくに雨は止んでいた。結果、差し障りのない返事をして携帯を閉じて、自転車にまたがった。帰る途中にコンビニに寄って、返事でその子が教えてくれたアイスを、1人で食べた。いつか2人で食べたい、そう思った。

 

家に帰った。いつも通り母親が山盛りの麻婆豆腐を用意してくれていた。テレビを見ながら食べていたら、またLINEの通知。誰だろうかと覗き込むと、その子からだった。僕はロック画面に表示されたその内容を見て、持っていたスプーンを落としてしまった。すぐに連絡をしたいと思ったが、ご飯が残っていたので急いで口へ放りこんだ。

 

ごちそうさまでした、ごめんお皿は後で洗う、ちょっと、友達がいま大変でさ

 

その子はその日、当時付き合っていた彼氏と別れたことを1番に僕に教えてくれた。

 

僕はその子を慰めようとか、そんな想いに至れるほど余裕のある人ではなかった。ずっと言いたかった気持ちを、今すぐ伝えたいと思った。

 

通話開始のボタンを押した。しかし、着信音が鳴り響く時間に冷静さを取りもどし、恥ずかしくなった。こんな急にかけて出るわけがないと思った。引き返そうとキャンセルのボタンを押そうとした時、もしもし、と小さい声が聞こえた。その子は電話に出てくれた。

 

頭が真っ白になりながらも、我に返りまずは話を聞こうと思った。どうやら振られたらしい。声に元気はなかった。すぐに話を変えて、笑い話をした。その子は笑う代わりに、ありがとうと言った。いいよ、そんな、それよりさ、

 

僕は意外と、すんなり告白をすることができた。

 

その子はわかりやすく動揺した。いや今別れたんですけど、え、何、しかも電話で?このような事を言われ、自分がなかなか大胆な事をしている事に気がついた。しかし、想いは本物だった。だから、迷いはなかった。とりあえず明日の花火大会で会おうと言う話になり、電話を切った。部屋が静かになった。いつもは苦手な静かさがその日だけは、心地よかった。