Hiraku’s diary

特にコンセプトはございません。ご笑覧ください。

味のしないガム

これは私の、恐怖体験である。閲覧注意。

 

セミの声が響き渡る街路樹を横目に、灼熱のアスファルトの上を自転車で走っていた。

 

汗が滴り落ちる。しかしすぐに乾いていく。中2の夏、考えていたのは強いパンチの打ち方と少し気になる子の言動についてだけだった。そんな毎日。しかし、強烈に記憶に刻まれた一言がある。

 

――――このガム、味がしねぇな。

 

その日、私は部活に急いでいた。猛烈に暑い体育館の中は、着替えるだけで汗だくだ。持参したアクエリアスを飲みながら、友人とバッシュの穴に紐を通す。すぐにメニューが始まり、昼過ぎに練習は終わった。

 

部活後はいつも、グッタリとしていた。

体力には自信がある方だったが、ペース配分が苦手なのでいつも過度に疲れてしまう。

その日もそうで、友人とゆっくり自転車を漕ぎながら帰った。途中、公園に人影があるのを見つけた。誰だろうと思い、目を凝らすと、その友人と別の友人の兄だった。

 

その人はよくその友達の家に遊びに行ったときに遭遇していた。いつもズボンのポケットに両手を突っ込んで、そのポケットの中でやたらと手を動かしたり、髪を自分で切ったりしてしまう、かなり変わった人だった。

 

声をかけるような間柄ではなかったので素通りしようとしたが、友人が悪意に満ちた口元で観察しようと言ってきたので一緒にしばらく見ることにした。

 

覗いていると、その人は徐に草むらにのしのしと入って行った。そして急に大きな声を出した。

 

「コーラガムみっけ!」

 

私たちはもう彼に釘付けだった。いやただのガムじゃなくて、コーラガムってちゃんという必要あるか?そして落ちてるコーラガムを見つけてそんな興奮するか?これからどうするんだ?私たちは恐怖を超えた好奇心で自転車を停め、彼に近づいた。

 

その人はその「コーラガム」を拾おうとしていた。私はてっきり、ビニールに入った小さなものを想像していたが、違った。生のやつだった。おそらく誰かが吐き捨てたのだろう。取るのに手こずっている。べったりと、草に張り付いている。

 

いや、それ取ってどうするんですか?と笑って尋ねた。そしてそのガムをよく見ようと近づいて、最も恐ろしいことに気がついた。

 

そのガムは、どう見てもカマキリの卵だった。

 

気色が悪いと思った次の瞬間、彼はそれをむしりとり、口の中に放った。そして咀嚼をしながら、こう言い放った。

 

「このガム、味がしねぇな。」

 

僕は抜けそうになる腰を携えながら、必死に自転車の方に走った。友達も、這うようにして逃げてきた。恐怖だった。その日彼は僕の想像を超えた。その日以来、その彼と会うことはなかった。