Hiraku’s diary

特にコンセプトはございません。ご笑覧ください。

マッハ自転車

マッハ自転車をご存知だろうか。

 

ポケモンのエメラルド世代を経験してきた私と歳の近い人ならこの言葉が懐かしく感じられることと思う。

 

私はダート自転車のような、モテたい人が乗る見た目だけ奇抜なスピードも出ない、何故か跳ねることができる意味不明な自転車には全く興味がない。段差を自転車で降りれることがかっこいいとは思わない。前輪を上げてドヤ顔をされてもなんと言葉をかければ良いかわからない。そもそも、自転車は歩くよりも速く、そして燃料の代わりに脚力を使うことで経費削減できることがメリットなのに、自転車に乗ること自体を目的としてしまう本末転倒な自転車に乗るなんて、人生をわき見運転しているみたいで全く惹かれないのだ。

 

ダート自転車に乗っていた人は気を悪くしないで欲しい。みなさんが乗っていたその自転車は、「おしゃれに時間をつぶせる物体」としては非常に優秀なモノなのだ。だから私にとっての「安いギター」と同じ価値のものである。

 

ところで、今回取り上げたマッハ自転車だが、言うまでもなく私はゲームの中でその自転車に憧れていた。本気でかっこいいと思い、いつか乗りたいとずっと思っていた。こんなにスピードが出る自転車に乗れば、髪を乾かすことができるし、元気を持て余した犬の散歩に役立つし、暗い道で怖い人にあってもすぐに逃げられる。メリットだらけだ。

 

そして私は大学生になってやっとマッハ自転車を買うことができた。現実世界ではロードバイクと言う。タイヤが細く、ハンドルのところが傘の持つところみたいにカーブしている。スタイリッシュなボディーにあしらわれたシンプルなデザインが非常にカッコ良く、大変気に入った。

さっそく乗ってみた。サドルが細く、すこし肛門周りに鈍痛がするものの、本当にスピードが出る。快適な自転車生活の始まりだった。

ある日、いつものように自転車に乗り学校へと向かった。その日は学校終わりにバイトがあったのでリュックにはたくさんの参考書を入れて向かっていた。途中、信号が目の前で赤に変わったのでいつもと違う道を通っていくことにした。しかし、何も問題はない。スピードが出るからどんな道でも間に合うのである。僕は、自分が強くなった気がした。

 

そして裏道の車道をすいすい通っていると、渋滞に巻き込まれた。しかし、自転車は押せば歩行者になることを知っていた僕は、すぐに自転車を降り歩道を歩いた。歩道は狭く、向かってくる人がいればどちらかが車道に降りなければならないほどだった。

 

僕は時計を見た。思ったよりも時間が経っており、講義が始まりそうである。やばい、もうこれは乗るしかない、そう思い、重たいリュックを背負ったまま再度ロードバイクに乗った。いつもよりサドルが肛門周りに食い込んだことを覚えている。しかし、さすがはロードバイク、すぐに軌道に乗った。その瞬間のことだった。前傾姿勢の私の背中にあったリュックが突然右手の方にずり落ちた。私は小さく「アン」と言いバランスを取ろうとしたが、無駄だった。思いっきり右にハンドルを取られてしまった。

 

歩道から落ち、渋滞している車の一つに突っ込んだ。銀色の軽自動車だったと思う。そしてその反動で再度歩道に乗り上げ、たまらず僕はその車道沿いの店の駐車場に倒れ込んだ。ペダルがふくらはぎに突き刺さり、痛みで起き上がれなかった。

 

その車から人が出てきた。そして、私の顔を見るや否や、えぇ?!拓くん?!といった。あれ、なんで、、と僕が言うと、私あなたの先輩の保護者よ。一回会ったの覚えてない?と言われた。この瞬間、本当に申し訳ないが、知り合いで良かった、、と思った。

 

その人はとてもいい人だった。「車の心配は要らないよ。傷なんかもついてな、、、あっ、そこそこいっちゃってる、、いやでも気にしないで!!ヘコミとかないから大丈夫大じ、、、あ、ここ結構へこんでるな、、いや、大丈夫よ!気にしないで!」と、4年経った今でも鮮明に思い出せる顔で言葉を僕にかけてくれたが、本当に見過ごしてくれた。感謝である。マッハ自転車は男子生徒の夢であるが、私のその日のふくらはぎは、真っ赤自転車だった。