投石
大学生の時の話である。
僕は当時やや大きめのサークルに入っていて、活動にもそこそこ顔を出していた。夏、そのサークルの人員でキャンプに出かけた。川沿いの大きめのロッジを予約した。
僕はキャンプと言えばバーベキューは欠かせないものだと思う。また、バーベキューもただ肉や野菜を焼くだけではなくて、ピザを焼いてみたり、マシュマロに焦げ目をつけて食べたりと少し遊びも必要だと考える。そのため、買い出しに行く時などは必ず参加し、あれこれ口を出す。"バベ奉行"、とでも言おうか。非常にめんどくさいタイプの人間である。
キャンプ場につき、川に遊びに行く輩、ロッジでこっそり酒を飲む輩、イチャイチャする輩、人間は十人十色であることを確認しながら僕は炭に火をつける。これがまた大変である。知らないくせにやろうとする奴が出てくる。だいたい彼らは、未熟な炭に対し、何かに取り憑かれたかのようにうちわで風を送る。本当に厄介な存在である。消防士が向いているのではとアドバイスしたくなるほど火を消す。お前は黙ってロッジに入ってきた虫を外に出すことでもしていなさい。
僕は不器用ながらもやり方は知っているので、そういう場面でそこそこ活躍する。褒められると調子に乗って頑張り、自分は何も食わず空腹で真夜中を迎えたこともあるくらい献身的だ。
しかしそんな僕でも、これだけは譲れないというものがある。
それは、花火である。
キャンプでみんなが疲れてきた頃に、小さな明かりを灯し、心身ともに安らぎを得られる手持ち花火。僕は必ずそれを最初にしたいと考える。エモーショナルな瞬間の皮切りとなれる数少ない瞬間に僕は携わりたい。
僕はそのキャンプの際にも、花火をこっそりむきはじめた。手持ち花火は袋がやたらと多い。暗くなると開けにくくなる。あらかじめ開けておくことでみんなが花火をしやすくなる。ほんの少しの心遣いである。
そんな矢先だった。
1つの歓声が聞こえた。
なんと、花火に火をつけた者がいるではないか。
そいつは、日頃いじられキャラで、手足が短くやや太めの図体なので、ドラえもんと呼ばれているタイプの人間だった。彼が火を灯した花火は煌々と夕焼けに染まるキャンプ場を彩り、それにつられて多くの人が花火を始めた。
僕はやり場のない怒りが胸の中にふつふつとこみ上げてくるのを感じた。僕が一番初めにやろうと思って準備していたのに。何もせず川に飛びこんでロッジを濡らしやがった迷惑ドラえもん、ひみつ道具どころか金もちゃんと出してるのか分からねえお前が、俺の狙っていたポストをーーーー
僕はその瞬間、我を忘れて足元にあった2センチくらいの石を手に取り、ドラえもんめがけて腕を振り下ろした。悲鳴が上がった。ドラえもんに命中したのだ。
彼は大きめの虫に刺されたと勘違いし騒いでいたが、酒に酔った友人たちはただただそれを見て笑うだけだった。僕は、因果応報だ、と思いながらも、どさくさに紛れて心配したそぶりを見せただけだった。